解説文中の表具関連業界に特有の符丁や用語は、ご理解の一助となるよう別に説明しています。これも当該項目をクリックして、ご覧下さい。

作品 書作品、紙本(画仙紙 半切)、竪物。
仕立 丸表具、新装。
ご依頼主 A 様(大阪市北区)
 作品は、書家としてもご活躍の信貴山真言宗元管長、鈴木鳳永師による「福禄寿」。福禄寿は七福神の1柱として知られますが、本来の意は「福=幸運、禄=金運、寿=長命」を意味する誠にめでたい吉祥語を並べたものです。
 お任せいただいた表具もこれにふさわしいものをと考えましたが、ご依頼主の床の間が非常にモダンであり、伝統的な文様を使用しての軸装はとても似合わないと考え、無地表装を選択しました。
 ただ、中廻しこそ赤地のを配しましたが、一文字には宝尽し文を充填した錦地の小石畳文を使用しました。この一文字裂によって主題の意図を表現し、鑑賞の補助としています。
 軸端には銀灰色をした金属製のものを使用することによって、縁との紅白の構図で対比させています。なお、この銀軸は絓と素材感を合わせるため、虫喰の加飾があるものを選びました。

作品 文人画、尺三幅絖本
仕立 丸表具、新装。
ご依頼主 O 様(大阪市天王寺区)
 作品はまくりの状態で保管されていたのですが、ご主人があるとき当社へ持ち込まれました。嫁がれたご息女の新築祝として贈りたいとのご意向です。作品は明治時代の文人画家、田能村直入によるもの。ご依頼主が「当家は江戸初期からの家系」だとおっしゃったのもうなずけます。
 さて、この文人画を新しくできた床の間に合わそうかとも考えたのですが、ご主人とご相談の上、直入が活躍した頃に流行した明朝仕立で表具することに決まりました。明朝仕立は今なおモダンなデザインであり、現代的な作品にも良く調和する様式です。
 総地廻しには綸子を用いています。作品には、まくりといえど適度な古色が付いており、この焦茶地の裂が作品をよく引き立てるからです。
 軸端には牙代用の変わり形を用いました。牙代用とは象牙の代用品という意味で、合成樹脂でつくったものです。本象牙もお薦めしたのですが、さすがにご予算的に合わないというので、この軸端に落ち着いています。
 なお、唐木の軸端も検討したのですが、若夫婦のカジュアルな床の間ということであり、柔らかさや少し軽みも欲しかったので、アイボリーを選定しています。

作品 染色作品。
仕立 [行の草]、新装。
ご依頼主 Y 様(大阪市港区)
 2年に一度の展覧会に出品されるとのこと。中廻し天地ともご本人の作品です。様式は[行の草]。一文字風帯も付けない形です。
 軸端には深い緑色の釉がかかった陶器製のものを用いました。一般に染色作品には陶器など[行の草]に似合う軸端を用いれば、取合せをしくじることがありません(下写真1参照)。
参考写真1

 ところで、中廻し、天地ともご自身で染められたのは、たとえば染色作品に織り模様のあるを使用したならテクスチャに違和感が生まれるからです。ちなみに、屏風装でもかつては、染め物である夾纈(キョウケチ)や臈纈(ロウケチ)が本紙の屏風では、同じ夾纈・臈纈の縁が使われたそうです。
 こうした違和感は長い間に培われたもので、これは現代の作品を表具するときにも必要な感覚です。ですから、たとえば染色作品を額装する際にも、マット中縁を付けない直椽仕様で行うことが多くあります。あるいは、中縁をやはりご自分で染められたもので仕立てることもまた多くあります(下写真2参照)。
参考写真2



製作風景
作品 画仙紙全判。
仕立 [真の草]、新装。
ご依頼主 四天王寺 様(大阪市天王寺区)
 四天王寺さまの聖霊院絵堂には、杉本健吉画伯による聖徳太子絵伝壁画があります。この杉本画伯が2004年にお亡くなりになった際、ご遺族が壁画下絵を四天王寺さまへ寄贈されました。この大小取り混ぜて24点のまくり作品を、宝物殿で保管・展示したいとのご意向で、これらの軸装を承りました。
 作品のなかには写真のような着彩されたものばかりではなく、下絵の名通り白描画(墨による描線のみの作品)も含まれています。
 最初の打合せの際、軸装に用いる裂は統一したいとのことでしたので、寺紋の織り出し裂を提案させていただきました。オリジナルデザインは由緒正しさの証明の一つとなるものでもあるからです。
 四天王寺さまのご寺紋は細長い巴文を二つ組み合わせた「右二つ巴文」です。中廻しには、これを2寸と8分の大きさにし、主文(2寸丸)を置き並べた隙間に従文(8分丸)を等間隔に充填したデザインで、綾地の正絹へ地文風に織り出しました。一文字は正絹地銀欄へ、破れ唐花唐草文を意匠したものです。
 様式は[真の草]の仕立を基本としましたが、主題が宗教性の薄いものは丸表具で仕立てています。また、小作品は組み合わせて1幅にまとめ、合計22幅の掛物にしました。
 なお、丈が多少寸詰まりなのは、宝物殿での展示スペースの都合です。

 

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