解説文中の表具関連業界に特有の符丁や用語は、ご理解の一助となるよう別に説明しています。これも当該項目をクリックして、ご覧下さい。

作品 紙本小品、改装。
仕立 [真の行]、新装。
ご依頼主 T 様(大阪府八尾市)
 ご依頼主は代々続く門徒さんです。五十回忌をすまされたご先祖様達の法名軸を、ご夫婦単位でまとめて軸装したいとのご意向です。法名軸は、法名を記した小さい掛物で、位牌のように礼拝の対象としませんが、やはり傷んだまま放っておくのは忍びないとのこと。
 それぞれの表具は確かにボロボロになっており、また時代によって紙質・大きさがまちまちであったのですが、台表具の要領で軸装しました。  
 表具の様式は[真の行]。総縁には仏表具で多用される紺地蓮華唐草中廻しには赤地の富田雲を配しました。いずれも本金襴裂地です。
 また、台紙には半切画仙紙を使用しています。この画仙紙には時代色が付いた法名軸本紙に色目を合わせるため、唐紙(トウシ)と呼ばれる竹繊維を主原料にした、少し黄みを帯びたものを選びました。

作品 欧風刺繍作品、尺五竪物
仕立 [行の真]、新装。
ご依頼主 T 様(東大阪市)
 綿布に刺繍された『高砂図』を軸装しました。機械表装で綿布を軸装すると裏打が剥がれやすいことから、当社では昔ながらの手打ち軸装で行っています。なお、仕様に関しては当社に任せるということでしたので、ごく定番的な表具にさせていただきました。
 『高砂図』は別名『尉と姥』といい、描かれる老夫婦は兵庫県高砂の浦にあった、相生の松の精であるいう伝承から、神道系の本紙とされます。ですから、様式は神道系で用いる[行の真]を採用しています。
 一文字には唐花唐草金襴、中廻しには人絹の立涌牡丹(タチワキボタン)、天地には宝相華(ホウソウゲ)の円文を地文風にあしらった人絹緞子で構成しました。
 唐花とは特定の花を指さない、一説に天上界で咲くといわれる花文様で、唐草は連続文であることから子孫繁栄を意味します。立涌とはゆらゆらと気が立ち涌き昇ってゆく様を表現したとされる有職文様の代表的な構図で、牡丹は富貴を示唆します。また、円文は格式高さの表現に好適で、想像上の花文である宝相華も然りです。
 このように表具では吉祥文様を多用します。そして、この場合、いずれの文様も神道系の表現にはふさわしいものです。
 ところで、天地に柄物を配したのは、絵画作品の軸装ではこれの使用が普通であるからです。というのも、書作品は絵画作品より格が低いものとされ、柄物は無地物より格の高い裂地という認識があったからです。

作品 紙本(間似合)、尺幅竪物。
仕立 [行の真]、改装。新装。
ご依頼主 一運寺 様(大阪市住吉区)
 寺宝として大切に伝えられてきた知恩院七一世門主「万誉顕道」師による御名号(六字名号=南無阿弥陀仏)の改装を承りました。
 中廻し風帯は元の表具に付いていた本金襴裂地。古物の表具仕立て直しでは、改装前に使用されていた表具地の一部を残すことが、ままあります。これは作品の来歴を示す一つの手段になるからです。
 総縁は二丁上遠州と符丁している正絹緞子で、蜀江文地文風に織り出されたものです。この蜀江文は仏教関係の作品を荘厳するときに好適な文様です。
 軸端は、やはり改装前に付けられていた金軸を鍍金仕直して使用しました。蓮華唐草が手彫りで施された見事なものです。
 保存箱は共箱がなかったので桐箱にて新調し、しかも後々の保存に資するため、太巻芯にしました。

作品 紙本(楮紙)、尺二幅竪物。
仕立 丸表具、新装。
ご依頼主 T 様(大阪市住吉区)
 ご依頼主は長い間、本作品をまくりの状態で保管されていたのですが、自宅を新築された際のカジュアルな床の間で鑑賞したいと軸装を希望されました。しかも、作者が好まれた表具にして欲しいとのご要望です。
 というのも、本紙作者である那須恵斎先生は、数年前にお亡くなりになりましたが、ご存命中は当社を随分とご贔屓いただいていたからです。那須先生はお寺の住職をされる傍ら、洋画家としてご活躍された方です。洒脱なお人柄で、当社に表装のご依頼でお越しになったときにいただいた、たくさんの面白いお話しが懐かしく思い出されます。  
 さて、那須先生は洋画家ということもあり、軸装では無地表装を好まれました。そこで縁には床の間の壁色に合わせ、また画題の上人図にふさわしい紫地の正絹緞子を配しました。紫の表具地は伝統的に格式の高さを表現する際に用います。
 そして、写真では見づらいのですが、様式は筋割り明朝を用いた文人仕立としました。軸端も文人仕立で限定的に用いる黒檀製の変わり形です。
 ところで、軸装に限らず表具は、作者の品位を考慮し、その品等に合わせた表具地を配し、作者の好み、その属性によっても表具地を選別することが必要です。
 つまり、本紙の商品的価値よりも、その作者の人柄がどうであったかをも考慮することが肝要です。たとえば「出家の墨跡に生類の文様を用いず、中廻しに晴れやかな金欄を用いたりしない『表具秘伝書』」といったことです。

作品 紙本(画仙紙)、二尺五寸幅竪物。
仕立 絵伝表具、改装。
ご依頼主 萬福寺 様(大阪市大正区)
 お彼岸に掛けてお祀りしておられる檀家様の法名を記した什物を、傷んでいることからシミを抜いた後に改装して欲しいとのご依頼です。
 以前に、こちらの寺院で改装させていただいた什物、上宮太子像と七高祖像に使用した同じを用いて欲しいとのこと。中廻しには赤地本金富田雲、天地には紺地の蓮華本金襴といったお馴染みの定番ものです。軸端は改装前に付いていた金軸を、鍍金仕直して再使用しています。
 様式は改装前がそうであったように、俗に絵伝表具という御絵伝を表具するときに用いる柱の細い仕立てを採用しました。写真ではわかりづらいのですが、本作はかなり大きく、普通の仕立てでは脇陣の壁面に掛けきれないからという理由もあります。
なお、御絵伝とは、法然上人や親鸞上人などの聖人が、発心し衆生に仏法を説くところを絵巻物にしたものをいいます。

作品 紙本(画仙紙)、聯落竪物。
仕立 創作表具、新装。
ご依頼主 清華堂試作品
 以前に榊莫山先生からいただいた般若心経を創作表具にしてみました。榊先生は一風変わった表具を好まれることから、これも柱無しの掛物にしています。
 ただ、そうすると巻いたときの小口が擦れて傷むことがあるので、写真では見づらいのですが、左右の小口側には天地と同じを使ってにし、同じような画仙紙を筋割り明朝風につなぎました。ですから、これは明朝仕立の変形ともいえます。
 縁にはも面白いかなと思ったのですが、素材感が今ひとつ合わず、結局はパーと呼んでいる正絹無地裂を用いました。裂地の色は、作品に使用された青墨と呼ばれることもある松煙墨の色調に合わせ、紺にしました。軸端はこれに色目を揃えた陶器を使っています。
 ところで、こうした写経物に陶器の軸端は掟破りなのですが、陶軸を選んだのは、この写経自体が一つの作品であり、宗教色の極めて薄いものであるからです。内容からすれば磁器でもよかったのですが、全体の調子が薄っぺらなものにならないよう、陶軸のテクスチャをアクセントとして活かしました。

 

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