『表具-和の文化的遺伝子-』

(A4判、477頁、約70万字、図版267点) おかげ様で完売いたしました。
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概要

表具の様式や仕様を通して見ると、日本文化の特徴が、神道や仏教といった宗教で根元を分かつ和文化と漢文化のせめぎ合い、そしてそれから生じた棲み分けであることがわかります。それは、今日では確かに洋文化の影響が大きく和漢の境界がいささか曖昧になってはいますが、表具文化にはこうした様相が今なお色濃く残っているからです。

古来、日本の伝統文化は「真・行・草」の三体で表現されてきました。本書では、日本が誇る表具の文化史を整理した上で、以上の宗教観による差異とこれから派生する仕来りを「真・行・草」へ配当し、表具をまず大枠で捉えることによって様式を説明しています。
なお、本書で定義したこの「真・行・草」は、表具に限らないあらゆる日本の伝統工芸のみならず、書や絵画芸術へも広く適用することができるものです。
また、表具職人に受け継がれる口伝とこれまでの表具の作例から類推し、公式とも呼べるような一定の方式を導き出して解説を行っています。しかも、この方式は日本文化の特徴と構造の把握に役立つものです。それは表具文化が和のミーム(文化的遺伝子)に根差すものであり、このようにして抽出した方式が普遍性を備え、逆に日本文化の理解を促す一つの指針となるからです。

本書は、これまでに刊行されたことのない表具のコーディネート法を述べるものであり、表具の専門書であるのですが、こうした理由によって本書は表具界といった狭い世界だけでなく、より広い世界で一般性と存在意義を有していると自負しています。

ところで、本書で表具を網羅的に、しかも詳細に記述したのは、生活に密接する表具文化を多くの方に知っていただきたいと願う意図があったからです。また、別の理由に日本文化のエッセンスが表具の極めて細かい部分的な仕様にも多く潜んでいるからです。

今日、伝統工法による技能を含めた表具文化は危殆に瀕しつつあります。それには多くの理由がありますが、徒弟制度を経ずに表具を行う方が増えたのも一因です。本来、不立文字で一子相伝されたものは以上のように意義深いものであり、これの喪失は日本人にとって大きな損失を生むでしょう。こうした危惧も本書を記した大きな動機です。