解説文中の表具関連業界に特有の符丁や用語は、ご理解の一助となるよう別に説明しています。これも当該項目をクリックして、ご覧下さい。
 解説に付した参考価格は、写真に挙げた作品を表具した際のものです。襖を唐紙で貼り替えた場合は、一枚当たり\30,000程度ですが、作品には一つといって同じもののないことから、またグレードにつきましても上から下までありますので、表装価格は高くも安くもなります。したがって、あくまで目安とお考えください。

仕様 唐紙(上貼紙)、一二月(引手)。
仕立 四畳半仏間 4枚建 取合、新調。
ご依頼主 O 様(大阪市天王寺区)
 築20年の居宅で、猫に痛めつけられた襖を、猫がいなくなったのを機に新調されることになりました。以前は無地鳥の子紙が貼ってあったのですが、今回は無地では味気ない、でも柄物を用いれば部屋が狭く感じられるとのことで、唐紙(カラカミ)による本襖を提案させていただきました。  
 唐紙は、真珠光沢がある鉱物、雲母(きら)を顔料とした木版刷りの紙で、そもそも電気照明のない、つまり光源が乏しかった頃、雲母に反射した光によって室内の灯りの補助を目的とするものでした。
 ですから、唐紙は四畳半仏間といった小部屋に広がりを感じさせるには好適な上貼紙です。これへ、たとえば唐紙以外の具象的な柄物を用いると、仏壇の荘厳と合わせ見たとき部屋が窮屈なものに感じられることがままあるからです。  
 仏間には金砂子で表現した雲柄などがよく似合いますが、あまり抹香臭いのは苦手だとおっしゃるご主人には喜んでいただけた襖紙です。  
 唐紙の文様は若松文で、奥様がお選びになりました。また、引手は、写真ではわかり辛いのですが、黒塗り艶消しと良く調和する赤銅色の、半月を象った「一二月」と呼ぶ左右対称に取り付けるもので、遊び心を感じさせるものです。

仕様 唐紙(上貼紙)。
仕立 寺院本堂 取合、張替。
ご依頼主 本長寺 様(大阪市中央区)
 寺院本堂の襖の貼替を承りました。ご寺紋を襖紙に配して欲しいとのご依頼です。
 そこで、寺紋をシルクスクリーンで作成し、鳥の子紙雲母で刷りました。寺紋の大きさ、配置、一枚あたりの個数はお任せいただき、地紙と雲母の色はご相談の上で、襖の調製に取り掛かりました。
 この襖紙はいわゆる唐紙であり、以前は木版刷りの手間のかかるものでしたが、今日ではシルクスクリーンという簡便な技法によって、納期の短縮ばかりか価格もリーズナブルなもので提供できるようになっています。
 それでも一般の襖紙に対し割高になることから、地紙の鳥の子紙には高級品を提案させていただきました。というのも、しっかりとした下貼が前提ですが、高級紙はおしなべて耐用年数に優れているからです。また、材料に良いものを使用すれば、汚れには無力ですが、襖は何十年と保つからです。
さらに伝統的な下貼工法を施せば破れにも極めて強い襖となります。こうした下貼工法は日本以外にはなく、千年以上もの時間を掛けてペーパードアを作り愛用してきた日本独自の文化です。
 ところで、寺紋のレイアウトの際、考慮しなければならない点があります。それは、まず全体を円形に配置すること、そして引手位置に寺紋がこないようにすること、の2点です。以前は苦労してデザインし刷り元に発注していたのですが、今はCADで簡単にできるようになり便利になりました。

仕様 絵襖(手描き上貼紙)。
仕立 八畳座敷 押入、新調。
ご依頼主 Y 様(大阪市都島区)
 ご趣味で日本画を続けておられるご主人から、襖の新調を承りました。三六判の画仙紙にポスターカラーで描かれた作品を裏打し、襖の上貼として欲しいとのご意向です。裏打後、下地の製作に必要な採寸のため、現場にうかがいました。
 ご自宅は古い家を建て替えられたのだそうですが、座敷だけは旧宅のものを移設されたそうです。どっしりとした風格が見受けられた床の間だったので引手の選定には迷ったのですが、ご主人は作品主体、つまりあくまで作品と調和するような取合せを望まれました。というのも、計画しておられる個展の一つの作品として製作して欲しいとのことです。
 そこで、椽にはカジュアルイメージを喚起させる赤溜塗、引手には丸形でシンプルな木製のグレー系塗装仕上げのものを提案させていただきました。

仕様 押画貼(手描き上貼紙)、六晶雪華(引手)。
仕立 八畳座敷 地袋、張替。
ご依頼主 O 様(大阪市天王寺区)
 お手持ちの作品をなんらかの形にして座敷に飾りたいとのこと。大きさが大きさですので、お客様方の座敷を拝見した上で、地袋に表具されてはと提案いたしました。
 この作者は洋画を専門とされた方だったそうですが、このような文人画風の作品も残されています。文人画の表具は小柄の裂を用い、筋割りを多用するのが定石です。
 本作の場合も、こうした式に則り、縁には小柄の利休魚子(リキュウナナコ)を用い、白茶の筋魚子で縁を分割するというデザインを行いました。引手の座は六晶の雪華文を赤銅で色付けし、五郎三(ゴロサ)と呼ばれる赤系統の焼付塗装を施した小座付きのものです。このような、がっちりとしたシンメトリーなデザインも文人画には似合います。なお、襖は元あったものを、そのまま用いました。
 ところで、表具には多くのこうした式が口伝で残されています。これらは必ずしも守る必要のあるものではありませんが、ただ式に沿ったデザインを行えば、たいていの場合にすっきりと納まります。これは先達が経験的に知って残した優れた遺産といえるでしょう。

仕様 マリメッコ生地
仕立 六畳和室 押入、開き新調
 

 

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