解説文中の表具関連業界に特有の符丁や用語は、ご理解の一助となるよう別に説明しています。これも当該項目をクリックしてご覧下さい。

作品 キャンバス地 アクリル画。
仕立 衝立、新装。
ご依頼主 M 様(大阪市中央区)
 仏壇屋さんのご依頼で、ご寺院に納まる特殊な衝立を製作しました。デザインは仏壇屋さんのご主人によるものです。
 なお、衝立(ツイタテ)とは目線をさえぎるために置く什器です。一般には玄関で用いることが多く、ご来客の目が廊下先に届かないよう立てるものです。
 さて、円形の本体部分は210p径もある大きなものです。普通の額縁屋さんであるならフラッシュ下地を使用されるかもしれませんが、当社では杉材の骨下地を用いました。
 フラッシュ下地というのは角材をベニヤ板2枚ではさんで作るパネル状の下地を指します。これに対し、骨下地というのは細い杉材を格子状に編んで作り、これに下貼を施したものです。
 骨下地にどういったメリットがあるのかといいますと、まず軽い。軽いということは移動の際に楽であり、本体のみならず床を傷めることも少ないという点を挙げることができます。そして、本体部分を支える出居(デイ=衝立の脚部分)の構造をさほど頑丈にしなくてもよい、つまり価格性に優れることにもつながります。
 さらに和紙を幾層にも重ねて下貼した骨下地は狂いにくく、しかも調湿作用が高く、つまり作品の保護に適しており、またベニヤ板から生じるアクに対する不安もありません。
 ところで、こうした骨下地構造は欄間額でも、その長所を発揮します。欄間額は通常、欄間部分、つまり頭より上の部分に据え付けるものです。なんらかの拍子に落下事故を起こしたとき、欄間額自体が重ければ作品は大きなダメージを負うことになります。さらに運悪く下に人がいようものなら、取り返しのつかないことになるやもしれません。骨下地構造は日本の表具師達が長年掛けて編み出した優れた知恵といえるでしょう。

製作風景

設計

仕様 金銀箔紙。
仕立 盆舞台、貼替。
ご依頼主 国立文楽劇場(大阪市中央区)
 盆舞台というのは、客席の上手側に張りだした、太夫と三味線弾きの演奏用の場所が、回転式の盆になっているものをいいます。
 破れや擦り傷があったことから、貼り替えたいとのこと。下の施工中の写真をご覧いただければわかるように、そこそこ大きなものです。貼替前は3ヶ所で継いだ仕様になっていましたが、今回施工させていただいたときには別押しの一枚ものを提案させていただきました。
 浮け張りは手漉き和紙で2回施し(下写真参照)、表と裏にそれぞれ金箔紙と銀箔紙を貼りました。これによって合板下地の固い印象が和らぎ、ふっくらとした仕上がりになっているのが、おわかりいただけると思います。
 ところで、浮け張りの機能はこればかりでなく、上貼紙の湿度変化による伸縮を緩和し、また下地の若干の狂いに対処が可能で、つまり上貼の裂けやシワを防ぐことにもあります。また、浮け張りは特に合板下地の場合は、これから生じるアクも抑え込んでしまいます。
 なお、浮け張りを含めた下貼紙に手漉きの良いものを使用すれば、耐久性が飛躍的に向上します。

施工中

手漉き和紙を使った下貼

 これは工務店から持ち込まれた仕事です。寺院の、灯明を供えるために用いられる灯籠の一部であると思いますが、この金属製の内側に障子紙を張って欲しいとのご意向です。
 普通の方法では、すぐに紙が浮いてしまうので困っているとのこと。しかたがないので昔の地球儀に貼ってあったような方法で、紙を楕円形に近い形に切り、これを一つひとつ張ってゆきました。
 これには手漉きの美濃紙を用いています。というのも、機械漉きの障子紙では伸びが悪く、耐久性も低いからです。
 このように照明に張られた紙を張り替えることも表具師の仕事であり、当社でも年に幾度かは機会があります。たとえば飲食店の改装の際、脂で汚れた照明の内張障子を100個近く張ったこともありました。

 下請けした、兵庫県芦屋市にある料亭のお仕事です。現場はこの料亭の離れにある40畳ほどの部屋で、ご依頼は開口部を除く4面の壁装。施主さんが大変にこだわりのある方で、下貼そのものを仕上がり状態にして欲しいとのご要望です。
 紙には最高の下貼紙ともいえる本石州紙を使用しました。本石州紙とは島根県で漉かれている紙で、当社でも気合いを入れた仕事をするときには欠かせない紙です。
 これは、そもそも下貼専用の紙であり、強靱さのみを追求して漉かれます。そのため色がくすんでいたり、チリが入っていたりと、見た目の良さを一切無視した紙なのですが、これを浮け張りに使用して仕上げた表具は、ふっくらとした何ともいえない表情を見せます。
 ところで、下貼が上貼に昇格したこの仕事は、とても難儀いたしました。というのも、小判に切り裂いた紙を等間隔で狂いなく壁面に収めないといけないからです。鉛筆線などを入れるわけに行かず、タテヨコともに直角を出しながら張って行くには、とても手間のかかるものです。それに浮け張りは二重に掛けているものですから、最初に掛けた浮け張りの継ぎ線に重ねるわけにもいけません。
 当初は鳥の子紙系での上貼だったのですが、途中に仕様の変更があったことから、予定の3倍以上の手間暇を掛け、最後は意地になりながらも、どうやらこうやら収めました。

 とある寺院の本堂壁面へ金箔紙を貼りました。当社では施主さん直に金貼り施工を請けることはあまりありませんが、ちょくちょく下請け仕事であちこちのご寺院で本堂や脇陣の壁面を金貼り施工しています。
 上の写真も、その一つ。金箔紙に使われている金箔は本金ではありませんが、金を貼るときにはやはり気を遣います。というのも、金箔紙など金属箔を押した紙の施工の際に、少しでもチリやゴミが入ろうものなら、その部分が乱反射し、すぐに上貼へ影響を与えるからです。
 このご寺院の壁面が特殊だったところは、入り隅がアールであったところ。通常の入り隅は直角で、ここへ四分一(シブイチ)と呼ぶ細い椽を打ち廻して貼り仕舞いをおさめますが、本件の場合は椽を打てないものですから、随分と手間がかかりました。
 なお、この下貼りに使った浮け紙も本石州紙です。

 運送中の事故によって傷が付いた、屏風の保管箱を修理いたしました。この箱は二重箱の外箱です。
 この箱には春慶塗という木目の見える透明塗が施されていました。これを、傷ついて陥没した部分のみ部分塗りで補修して欲しいとのこと。
 しかし、問題は陥没部分のパテ埋め処理後に、和紙で養生貼りをする必要があり、これが非常に見苦しくなることです。なぜなら、補修部分は不透明塗となり、その見場における相違があまりにも大きいからです。また、和紙貼りとの境界部分の段差処理が上手く納まりそうにありません。
 こうしたことから、施主のご了解を得て修理は溜塗で、しかも色を揃えるため当該箇所だけでなく全体を塗ってもらう計画を塗師に伝えました。なお、塗師とは漆塗職人をいいます。
 さて、ここで問題となったのが、金具です。金具を付けたままでは塗ることができません。なかでも一番のネックが「棹通し(丸鐶が付いた屏風箱を支持するための鉄製金具)」の部分です。
 これを支える、やはり鉄製の受け具は先端を割足にして固定されており、この金具を外すにはリスクが伴います。それは、この重い屏風箱全体の荷重をこの鉄製金具の割足部分が受けている事実から、鉄自体が非常に硬く強度の高いものであると知れるからです。つまり、硬いゆえに脆いものであるからです。
 万が一の場合を考えて金物職人を控えさせ、何とか金具の取り外しを終えました。それから待つこと1ヶ月半。塗師のもとで仕上げられた屏風箱は、写真のように素晴らしい仕上がりとなりました。
 金具は当初、錆びたままの状態で取り付けて欲しいとのご意向でしたが、今度は金具と屏風箱の質感が合いません。そこでまた施主さんを説得し、金具の錆び落としを行いました。つまり、時代を経たものには値打ちがあり、その時代性が屏風そのものの価値に反映するのではないか、と施主さんがお考えであったからです。
 ところで、美術工芸品は今日、オーセンティシティ(当初性)が重視されますが、保たれていないことによる作品価値の低下は作品とその表装部分について問われることで、このような保存箱、特に箱書の伴わない外箱に関して云々されることはないと考えています。
 それは箱自体が保存を目的とするものであり、逆に箱が傷むことによって作品が保護されているからです。しかも本来、塗物は幾度も塗替えが行われることが普通であり、それが日本漆器の特長とされてきているからです。
 ただ、本件の屏風外箱は今日での樅材の入手難により新調の可能性の低いものです。こうした意味では外箱自体にも価値があるものといえます。
 最終的に、施主さんをこのような形で説得したのは、透明塗を不透明塗に替えることには確かに古美が失われますが、新たに箱下地へ下地塗を塗り重ねることは外箱自体の堅牢化につながることであり、むしろ本初的な箱の目的からいえばメリットの多いものになろうかと考えた次第からです。

 大阪城公園の中にある武道場、「修道館」さんから、額の修理を承りました。この額は清華堂の亡き二代目が製作したものです。
 何十年の前の仕事の記録が、よく修道館さんに残っていたなと不思議に思っていたのですが、何のことはない、ハローワークでお調べになったとのこと。
 でも、こうした旨をお伝えすると、「ご縁ですね」とおっしゃっていただいて、喜んでくださいました。こちらのほうも、先代の仕事に関わることで、とても嬉しい気分で仕事に取り掛かることができました。
さて、本件は額を付け留めてあった紐が劣化して切れてしまい、ある朝ヒラヒラと舞い落ちてきて傷んだものだそうです。
 修理後は紐を取り替え、道場のもと掛けてあった位置に取り付けさせていただきました。
 紐は「ケブラー」と呼ばれる米デュポン社が開発した強化紐です。世界の多くの軍隊で、戦闘機のシートベルト用素材として、またNASAで宇宙空間での作業に用いる命綱の素材として採用されているものです。もうこれで紐の劣化には、あまり気を遣うことはないでしょう。
 なお、上の写真では一人で作業しているように見えますが、実際は二人で行っています。写真撮影のため、もう一人が一時的に梯子を下りたからですので、どうぞご心配なく。
 ところで、清華堂では額の取付けのみのサービスも行っています。どうぞ、お気軽にお問い合わせ下さいませ。

 

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