解説文中の表具関連業界に特有の符丁や用語は、ご理解の一助となるよう別に説明しています。これも当該項目をクリックして、ご覧下さい。

作品 書作品、画仙紙全判(4点)
仕立 五尺二曲屏風一。シミ抜き後に新装。
ご依頼主 国立文楽劇場 様(大阪市中央区)
 大阪生まれの歌舞伎役者、三世 中村梅玉が舞台で曲書きしたものを屏風装しました。『蘆屋道満大内鑑』の「葛の葉子別れの段」で「恋しくば尋ね(右一面)来て見よ和泉なる(右隻二面)信太の森の(左隻一面=鏡文字)うらみ葛の葉(左隻二面)」という歌を、役者が筆を左手や口にくわえて、また鏡文字で書くなど、いわゆる曲書きによって狐の霊力を見せる場面でしたためられたものです。
 歌舞伎の題材ですので、[行の草]的な作品に見合う竪縞柄の裂地大縁に使用しました。ただ、ある程度の華やかさも欲しいので、単なる竪縞裂ではなく地文風に宝尽し文をあしらった伊予簾と呼ばれる正絹裂地を取り合わせています。
 角金具と呼ぶ錺金具(カザリカナグ)は古美仕様の「虫喰鶴首」と呼ばれる瀟洒なもの。これは全体のバランスを考え、野太くならないように注意を払ったことからの選定です。
表装前 下隅の仕様

作品 紙本印刷作品(地獄絵巻)
仕立 礼場、改装。
ご依頼主 実相寺 様(大阪市天王寺区)
 当初、地貼には赤地の鳥の子紙が使用されていましたが、余りに表具が強いとのことで、改装の依頼がありました。
 そこで、地貼を生成りの鳥の子紙に替え、宝輪文や四つ手雲といった八宝文(八吉祥)が織りなされた、仏教主題に用いる正絹裂地大縁に使用。しかも作品は印刷物といえど古色が巧に表現されていることから、調子を揃えるため、この緞子にはあえて年月が経ち擦り切れたような感じを表現した復元裂と呼ばれるものを選定しました。
 また、改装前はジグザグに配されていた作品も、全体に統一感と落ち着きを与えるため、ある程度ブロック単位でまとめ上げています。

作品 紙本、水墨横物作品。
仕立 三尺二曲半、新装。
ご依頼主 Y 様(大阪市旭区)
 ご趣味で水墨画を楽しんでおられるご主人から屏風装を依頼されました。本来、表具では向かって左の作品を下方に配するのが伝統的な仕方ですが、作品の構成上、向かって右の作品を下方に配しました。 また、作品は小品であったので、畳敷きの広間で座って鑑賞しやすいよう、横長作品をあえて竪長で構成する形のものを提案させていただきました。 縁には現代的な水墨画に見合うよう、また鑑賞に支障がないよう無地の正絹裂を使用。この紫地のは、写真では見づらいのですが、紬のように緯糸へ不規則な節が現されていると呼ばれる素材感に優れるものです。絓は文人様作品に好適で、過去、多くの文人画表具で愛用されてきました。

作品 紙本拓本作品。
仕立 五尺二曲半、新装。
ご依頼主 S 様(奈良市)
 塼(セン)とは中国語で煉瓦を意味する語で、今日のタイルのようなものです。この作品に拓本された四角い塼は方塼と呼ばれるもので、漢代につくられたものだそうです。
 ご依頼主が中国でもとめられた、この塼の拓本を屏風にしたいとのことで、写真のようにまとめ上げました。
 ご自宅のカジュアルスタイルな洋間の一隅に据え付けたいとのご意向で、椽には白木地仕上げのシオジ材を使用しています。
 なお、洋室には広葉樹材がよく映えますが、これを濃い色に色付けしたものはクラシックで重厚な部屋でなければ似合いません。


作品 紙本拓本作品。
仕立 本間二曲半双、新装。
ご依頼主 S 様(奈良市)
 本作も漢代につくられた瓦が拓本されたものを貼交屏風にしたものです。四方には陰陽五行の約束事に従い、四神を順に配しています。
 こちらは和室に据えられるというので、には墨色に染めたキハダ材を使用しました。
 地貼には布目銀と呼ばれる鳥の子紙を使用。布目銀は銀粉を簀の目状に漉き込んだ紙で、布目金とともに、古美を表現したいとき、しかもやや重厚な感じが欲しいときに当社ではよく使用する加飾紙です。
 この布目銀と墨色の椽によって一本調子になりがちな拓本表具の調子を整えました。

作品 刺繍作品。
仕立 風炉先屏風、新装。
ご依頼主 T 様(大阪狭山市)
 風炉先として使用できる屏風にして欲しいとのご意向です。風炉先屏風とは、茶座敷で用いる二曲の道具屏風をいいます。そして、風炉先屏風は直角に開いて立てたとき、その外寸がちょうど畳縁の端から端までわたるように寸法を決めます。
 さて、本作の場合、縁無し屏風にしたのは、縁取りをすると屏風幅がご自宅の畳幅を超えてしまうからです。  
 風炉先屏風にも真行草があるとされます。真には黒蠟色塗椽、行にはその他の漆塗、草には赤杉の木地物を用いるといいます。と、ここまでお話ししたときに「いやいや、そこまで大層なものにするつもりはありません。お遊びで使うものですよ」とおっしゃったことで、椽にはシオジを選びました。  
シオジ材は、バットの原木として知られるように、とても硬くて耐久性の高い材です。しかも広葉樹材であることから、色付けすると木目が面白い形状で強く現れます。
 ですから、シオジの選択は、傷みが少ないという理由だけでなく、木目をこの少し寂しい感じのする縁無し屏風のアクセントとしても活かしてみようという発想です。  
 なお、茶系に色付けしたシオジ材は、キハダ材のものとあわせ、業界では女桑(メグワ)と呼び、桑の模擬材として襖やその他でも多用するものです。
 ところで、色付けを行わないシオジは洋額でも使用します。この木地物シオジの洋額での使用は、おそらく日本オリジナルなもので、カジュアルなイメージを喚起するものです。
 というのも、日本では針葉樹材を白木地で使用するのは一般的ですが、西欧では木地物を色付けせずにそのまま使用することはほとんどなく、何らかの方法で塗装を施すことが普通であるからで、針葉樹材を額に用いることもあまりしません。
 また、ケヤキを除く広葉樹材を表具地として使用するのは、日本では草の仕立て以外にはないからです。しかも、この場合でも最低色付けは施します。
 つまり、いいかえれば木地物シオジは和洋折衷に向く、便利な材であるということです。ただ、本作の場合は和風を意識して、色付けを施しています。
 なお、関東地方周辺、あるいは以北では、シオジをタモと呼ぶそうです。厳密には異なる材だとも聞きましたが、最近では近縁種の輸入材、ホワイトアッシュも代用します。

 

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